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物語

 古い着物を見せてもらった。江戸縮緬の真っ赤な生地に、松、翁(おきな)と媼(おうな)、鶴と亀の染め模様に、細かい刺繍がしつらえてある。

 松の樹皮の表情を玉留めの刺繍で描き、翁や媼の衣装にも金糸で柄が刺され、細かいところまで丁寧に刺繍がほどこされたそれはそれは見事な意匠。

 明治の頃の着物らしい。裄丈(ゆきたけ)が少し小さいので、おそらく少女のために作られた着物だと思われる。中ぶり袖に裾綿入れと、大切に大切に育てられたおひぃ様の衣装だというのが一目でわかる。

 その来歴を想像するほどに、物語が浮かび上がってくるのである。しばし眺めていると、持ち主の奥様が、「何かのご縁を感じるんでしょう?」とおっしゃった。ズバリ、そうなのである。古い着物は随分見てきてたが、この美しい意匠を目の前にすると不思議な縁(えにし)を感じずにはいられないのだ。

 「いつでも見にいらっしゃい」と声をかけてもらって奥様のお宅を後にした。帰りの車の中でもずーっと、真っ赤な生地に描かれた意匠が目に焼き付いて離れない。

 動乱の時代を生きた少女のことを思うと、心がときめく。いつもこのモードに入るときってとても居心地がいい。前世をたどるようで、胸が高鳴る。

真っ赤な江戸縮緬の着物。由緒ある家のお嬢様の着物に違いない。彼女はどんな人生だったのだろう。

共白髪の夫婦円満を意味する翁と媼、松、鶴と亀。縁起のいいものばかり。晴れ着には最高の絵柄がちりばめてある。全て手作業。日本の美しい伝統美。

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