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詩情

 冬の長湯温泉(大分県竹田市)。大気が澄んだ山間の温泉郷の真ん中を流れる芹川。おとなしい流れは日差しをやわらかくうつし、河原の小石をつたってセグロセキレイが水に光に戯れる。その水鳥の愛らしい姿を天満橋のたもとの茶屋から眺めていた。

 ストーブの火で暖まった部屋の油の匂いを断ち切るように、挽き立ての珈琲のアロマが鼻孔を抜けていく。ソーサーにカップを置いて砂糖菓子を口に含めば、冬の光の中に甘い翳りが忍び寄ってくる。苔色のベルベッドのソファのスプリングがきしんで、たちまち私は琥珀色の物語の入り口に立っていた…。

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 書生は天満橋をさしかかろうとして、島田を結った一人の女人が河原の湯壺で湯浴みするのを目にとめた。ほどよく肉のついた白くなまめかしい女体。全くの警戒心もなく女は、炭酸泉の泡を救うようにして頬に首にと湯をあてる。白い両腕を空にかざして女が笑うと、ふくよかな乳房が見えて、湯壺は広がる波紋のように幾重にも弧を描いた。

 この世のものではない光景だ…と書生は思った。天女が迷い落ちたのか、それとも鬼子母神の夜叉のきまぐれに遭遇したのだろうか。日差しが川に反射して女の横顔を光でふさいだ。冷たい風が河原を越えるようにして冬枯れの木立の枝を揺らす。山鳩がひと声鳴いて、女は彼の姿に気づいた…。

Photo_5   私はいつのまにか異次元の中にいた。つらつらと虚構の物語に引きこまれながら、あわててその映像を取材ノートに書き留めた。

 ここには豊かな詩情がある。もしかしてそれは、地霊のしわざかもしれないとも思う。心を刺激したのは茶屋に飾ってあった谷川俊太郎の手書きの原稿だった…。

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黙っているのなら 黙っていると言わねばならない

書けないのなら 書けないと言わねばならない

そこにしか精神はない たとえどんなに疲れていようと

一本の樹によらず 一羽の鳥によらず 一語によって私は人

 人間には、そのときどきの思いを言葉に文字にする能力を与えられている。悶々とした思いを無性に描きたくなるも「一語」が見つからない。もどかしさと高揚感のはざまで「詩情」だけに心を揺さぶられて…。

                               冬の長湯温泉にて

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ときめき」カテゴリの記事

コメント

それが今生きているということですよねっ♪

投稿: miy | 2010年12月24日 (金) 01時48分

<miyさんへ>
そうだと思います。
ステキなクリスマスをお迎えくださいね。

投稿: かずこ | 2010年12月24日 (金) 22時28分

ありがとうございます(*^-^)素敵なイブを過ごせましたwine。かずさん(と呼ばせていただいてもいいですか?)Merry Christhmasですwink

投稿: miy | 2010年12月24日 (金) 23時37分

<miyさんへ>
Merry Christhmas!
おかず、でも、お惣菜でも、
ご遠慮なくお呼びください(笑)。

投稿: かずこ | 2010年12月25日 (土) 09時51分

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